2018年7月15日日曜日

すごく大ざっぱな単気筒クランクバランスの考え方2

前回の続き。

SRXは1軸バランサー付き。
バランサーはクランクシャフトと1:1で逆回転。
このタイプ(1軸1次バランサー)の動作イメージはこんな感じ。

ピストンが上下死点時はピストンの発生する力の半分ずつをクランクとバランサーで振り分けて合計でつり合いを取る。
バランサーとクランクが逆回転するので,ピストンの力が発生しない時はお互いに打ち消しあう。
厳密にはクランクとバランサーで発生する合力の位置がピストンとズレる分,全体を回転させようとする力(偶力)が発生する。単気筒でバランスを取り切るにはバランサーが2本必要(2軸1次バランサー)。けれど,面倒なので今回は無視。
こんな感じで作動するので,前回「クランクのバランス率が約50%」というのは大体確からしいと思う。

ここでピストン重量が50g軽くなると,上図でピストンを100としているところが大体94ぐらいになる。
そうすると,本来クランク+バランサーで打ち消しあう上下死点時に上下方向に6%ほど振動が発生することになる。
ピストンの運動で発生する力は「F(力)=m(重量)×a(加速度)」の式で表せる。
mは往復部重量。上下死点のピストン速度がゼロ,1/2ストローク時に最大速度(実際には違うけれど)とすれば,ストロークと回転数からaを計算できる。

途中式をすっ飛ばして結果だけ書くと,4000r/min時のピストンで発生する力は,
 鋳造ピストン:1950N  鍛造ピストン:1830N
ぐらいになった。
クランクは1950Nに対して50%バランスなので,
 (1950/2)/1830×100=53.2%
となり,単純にピストンを変えるとクランクとバランサーが53%バランスになる。
その結果,上下方向に6%ぐらい余計な力(=振動)が増える。

1950Nの6%だと,増える量は116Nほど。
これがどのくらいかをざっくり計算する。
ストロークはカブの41.4mm,タケガワの商品説明見るとピストン40g,ピストンピン14.5g,コンロッド120g程度の様なので,往復部重量を101.5gとして計算する。
結果,アイドリング1800r/minで30N,3500r/minで114N。

回転数が上がればピストンの加速度が増えるので,レッドゾーンの7000r/minだと6%のアンバランスがもっと影響を持ってくる。
原付のエンジン1台余計に積んでるような状態と思えば,無視できる数字でもないなぁと。

この辺の単気筒エンジンのバランシングの話はグーグル先生に聞いてもちゃんとしたものはあまり出てこない。
単気筒自体がほとんど小排気量しかないから,多少狂ったところで極端な問題にならず無視されているのが実情。内燃機屋さんでこの辺りを理解できている人には今まであったことが無い。

社外ピストンもむやみやたらに軽くなるとこんな感じでむしろ振動が増えるのだけれど,大概は「ノーマルより〇〇g軽い」を売りにしている。
今まで見た中では,ワイセコのノーマル互換品とトレッセルのSR用が鍛造にもかかわらずほぼノーマル重量だったので,この2つはバランシングを考えた結果だと思う。

「軽いピストン入れたら振動が良くなった!」という人が良くいるのだけれど,物理的に出る振動と人の感じる振動は別で,「物理的には増えてても感じにくくなる」ことは良くある。
そうなる理由付けは色々あるのだけれど,今回は割愛。
バランシングはやらないよりやった方がいいので,今回のエンジンは鍛造ピストンで50%バランスになるように調整しようと思う。

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