2018年9月18日火曜日

ケナさず祭り上げず

ヤマハからセロー(トリッカー)とSRの新型が発表になった。
自分が見る限りおおむね好評のようで。
今のところ自分で買う予定は無いけれど,新型車が好評なのは二輪業界の活性化につながるので好ましいことだと思う。

けれどあちこちの評価を見ていて少し疑問に思うことがあった。

例えばセロー。
「排ガス規制に対応したにもかかわらずパワーアップ!すごい!!」って評価が多いけれど,違うんじゃないと。
排ガス規制は基本的にパワーは下げざるを得ない。だって理論空燃比近くで燃やさないと後処理ではどうにもならないのだから,燃調が薄くなる→トルクが下がる。
実際排ガス浄化のAIを廃止したというのが証拠かと。
AI自体は「理論空燃比より濃い状態の排ガスをエキパイ内で再燃焼させる」装置なので,理論空燃比近辺で燃えてるなら付ける意味が無い。
規制対応したのにAIを外したというのは,今までは濃いめに燃やしていたものを薄くしたからなんでしょう。

じゃあどこでパワーが上がっているかというと,実は騒音規制が以前と変更されている。
以前は日本の騒音規制は世界一厳しいものだった。
そのため国内向けだけ大幅にパワーを下げたりして対応したものを売っていた。
それが2014年の新型車からは「ヨーロッパ同等」の法規に変更になっている。
今までは騒音の縛りでマフラーやエアクリーナーを絞っていたものを,新法規に合わせることでパワーが出た。
新型は2014年から適用されているものの,騒音の測定法を変えると型式認定を取り直しになる。
今年から排ガス法規の対応もしないといけないのも決まっていたから,そのタイミングまでモデルチェンジを保留していた,というのが真実だと思う。

あるところでは新型セローにABSの設定が無いことを絶賛していたが,これも個人的には疑問。
MotoGPライダーでもない限り,オンロードでABSより短距離で制動できる人間なんてそうそういない。
オフロードでは邪魔になるのは分かるけれど,だったらCRF250RALLYとかアフリカツインみたいに後輪ABSのキャンセルスイッチを付ければいい。
まさかセローでモトクロスをするわけじゃないんだから,林道をトレッキングするぐらいのペースなら必要な時に後輪ロックで後ろを振り出せればそうそう不具合は無いと思う。
スペースや重量にしても,タイ向けのグロムではABSの設定がある。GROMに入ってセローに入らないってことは無いだろうと。SRにもABS設定が無いけれど,SRなんてもっとやりようはあるはず。
まして2021年からは継続生産車でもABS装着が義務化される。ならこのタイミングでABS付きの設定も併売したっていいんじゃないかと。

ナゼABS付きの設定すらしないか?
実は2021年からは今回のEURO4よりさらに厳しいEURO5排ガス規制が適用される。
EURO4でも空冷は厳しいと言われていたし,実際カワサキやスズキはEURO4のタイミングで空冷エンジン車は殆ど無くしたことを考えると,EURO5を古い空冷で通すのはほぼ無理(あるいは採算が取れないぐらいコストがかかる)。
それを合わせると,今回のセロー/SRは「EURO5のタイミングでエンジン新設計orモデル廃止の予定だからABSも対応しなかった」だけなんじゃないかと。

そもそもセローもSRもモデル廃止前にそんなに売れていた車両ではない。
ヤマハのオフロード車で新型を出すならセローよりWR250の方がよほど需要があったと思うし,SRよりドラッグスターの方が良かったんじゃないかと思う。
規制対応に当たって必要以上に変えなかったことを褒める向きもあるけれど,実際は「必要以上のコストをかけてまで変えても採算が合わない」だけだったんじゃないかと。
今年SRは40周年で,新型で40周年記念モデルが出る。
セローは2020年で35周年が控えている。
下手したら今回のモデルチェンジは「SR40周年,セロー35周年モデルを出すのに仕方ないから規制対応」しただけなんじゃないかとも思えてくる。

色々な事実だけを整理していくと,個人的には今回のモデルチェンジに関しては場当たり的で後ろ向きなものに思える。
セローもSRも嫌いではないし,良いバイクだとも思うので,願わくばたった2年で終わり・・・にならないと良いなと思う。

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