2016年12月11日日曜日

ラムエア考察

あるところで話題になっていて,なんとなく自分の頭の中が分からなくなってきたので自分なりに整理してみた。


①:大前提(目的)
 ・過給機のような機械的な機構を用いずに吸入空気量を増大させ出力UP

②:①を達成する手段
 ・走行風を積極的に取り込むことでエアボックスの内圧を通常時より高圧にする

③:②を実現するために必要な要件
 1.エアボックスの確実な密閉
 2.エアボックスまでのロスのない導風
 3.正圧部分へのダクトの開口
ここまでは至極当たり前のこと。
3はカウル前端にでも開けてやれば確実だけれど,メーカー純正ラムダクトみたいにヘッドパイプ貫通通路にしない限りどうしたってボックスまでに大きく迂回する必要がある。
正直200km/h程度で発生する圧力なんてたかが知れてるので,ダクトが曲がりくねってちょっとでも圧損が上がると一気に効果が下がる可能性が高い。
かといって90年代のフルカウル車のようにサイドカウルに開口なんかしても,流速は高くても圧力は低い。
下手するとカウルサイドを流れる流速が速くなった時に圧力が下がってエアボックスへ行く空気を逆に吸いだす…なんてことになりかねない。
各メーカーが型式変わるたびにラムエア導入位置やダクト形状が行ったり来たりしてるのも2と3の両立が結構シビアなんじゃないかなぁという予感がする。

ここでキャブレターの動作原理をおさらい。
Wikipediaから転載。

''ベンチュリは吸入空気の流路の途中を細く絞った構造で、吸入空気がベンチュリを通過するとき流速が増加する。流速が増加した吸入空気はベルヌーイの定理により静圧が低下する一方、燃料チャンバー内は大気圧に保たれているため、燃料チャンバーからベンチュリへと燃料が吸い出される。''
要はチャンバー室よりベンチュリ―(キャブ内)の圧力が下がるから燃料が吸いだされる。
ここで②のようにエアボックス=キャブ上流の圧力を上げた結果キャブレター内圧力が上昇すると,チャンバー室との差圧が減って燃料の吸出し量が減る。
空気は増えてるのに燃料の量が減るからA/Fは薄くなる。
かといってラムエアが入っているときにジェットを合わせると低速時は燃料が増えすぎてA/Fが濃くなりすぎる。
もっと極端にターボなんかで大気圧を大幅に超す圧力になるとベンチュリ―があっても大気圧以下にならなくなって,燃料が一切吸い出せなくなる。
それは都合が悪いので,フロート室の内圧を吸入側の圧力と同じにしないといけない。
ZZR1100は正面のラムダクトの中にフロート室にラムエアを導入するパイプが別系統で付いている。


次にフロート室の内圧を上げた時に燃料タンクが大気圧だと自然落下式の場合は燃料が落ちなくなる。
高速域で効果が高くなるラムエアの特性上,ストレートで全開走行を続けると徐々に油面が下がってA/Fが薄くなって調子が悪い。
なので,燃料タンクの内圧も合わせてやる必要が出てくる。
ZZR1100とか現行FI車だと燃料タンクから電動ポンプで燃料を圧送するのでタンク内は大気圧のまま。

これらの追加で必要なことをまとめると,
④:2サイクル・キャブレター車で追加が必要な要素
 ・エアボックス,フロート室,燃料タンクの内圧を合わせる
⑤:④を実現する手段
 ・キャブレターをエアボックス内に実装し,エアボックス内圧を燃料タンクに取り込む

ここまでは基本スロットルが開いているときの話。
ここでストレートエンドで減速時のことを考えると,
 ・スロットルバルブの閉によりインテーク内圧は低い
 ・車速が高いのでラム圧は高い
 ・ラム圧はかかり続けるのにエンジンが吸気しないため,エアボックス内圧は高い。
 ・エアボックス内圧が高いため燃料タンク,フロート室内圧も高い。
という状況。
これによってSJから必要以上の混合気がフロート室からインテークに押し出されて減速中にカブリ気味になる→立ち上がりで加速しない,ということが起こる。
これはこれで都合が悪いので何かしらの対策が必要。

⑥:問題に対して考えられる対策
 1.タンクの内圧を大気圧にし,燃料の供給をカット
 2.エアボックスを開放して内圧を大気圧にする
 3.ダクトを閉じてラム圧をカットする
3は現行車だとダクト内にシャッターが付いてたりする。騒音対策が主の気もするけれど,それだけなら負圧使って動作+ソレノイドで制御なんて複雑な機構にしない気がする。
FIだから燃料押し出すことはないけれど,減速時は負圧で閉じているんじゃないかと。
2はラム圧無しの状態になるので多分問題が起きない。
これが成立しないなら普通のキャブレター車もみんな減速でカブルはず。
1が今対策として話題になっている方法だけれど,個人的にはちょっと微妙な気がする。

  1. 燃料タンクの加圧が止まって燃料供給がされなくなったとしても,フロート室への加圧は続いているしフロート室内に燃料も残っている。燃料供給が止まれば徐々に油面が下がって薄くはなるだろうけれど,減速ってそんな長い時間続くの?とかそもそも一発カブったら結局次の燃焼に悪影響があるんじゃない?とか
  2. 減速中油面が下がり続けるということは,次に加速するときはA/Fが薄い状態になるということが一つ。A/Fが常に安定する必要はないものの,不安定になるような要素はセッティングの妨げになるから,出来る限り無いに越したことはないはず。
上の2点から個人的には「エアボックスの開放」が一番確実かつ根本的な対策の気がする。
それも可能であれば「スロットル全開以外はラム圧が極力かからない」状態にするのがドライバビリティの観点では正しいように思う。
というのも,⑥の問題をどれかの何らかの方法で解決,減速時はOKになったとして,次の加速体制に入るときのことを考えると,ライダーは瞬間的にとは言え5%とか10%開度の出力が出る前提でスロットルを微開している時間がある。
その時にエアボックス内圧が高い状態だとスロットルが開いた瞬間に一気に空気が流れ込み,ライダーが思っている以上に一気に出力が出て「ドン付き」に近い状況になるんじゃないかと。
特にパワーバンドより下になればなるほど,スロットル開度が小さければ小さいほど流入空気量は一気に増える=エンジントルクが一気に上昇する傾向があるので,その領域でのボックス加圧は正直乗りやすいものにはならないかと。
現行の純正ダクトでシャッターを使う理由もこの辺にあるんじゃないかと個人的には思っています。
この問題って入っていく空気量の問題なのでFIになっても一緒ですから。
ターボとかSC過吸だとウエストゲートバルブでインマニ負圧大きい(=スロットルを閉じている)時はブーストを抜いてしまうのでこういう問題は出にくいのかなぁと。

で,Rilassaruさんの構造図なんですが,個人的にはソレノイドの位置がちょっと疑問。

ソレノイドがここだと燃料タンクにホース繋いだらキャッチタンクとタンクが繋がらない気が。
あとワンウェイが入るのは燃料タンク~キャッチタンク間で,燃料タンクに吸い込むけれどタンクからは出ないというのが本来の取り付けです。
タンクブリーザーからの燃料流出防止でMFJで装着が決まっている部品だったと思います。
tanaka R ichirouさんが言っていた「125用と違い厳密なワンウェイではなく、逆流方向にもある程度エアが流れる」というのもちゃんとしたワンウェイだとタンク内圧調整に都合が悪いからそうなっているんだと思います。
なので上の配管はタンク‐ワンウェイ‐ソレノイド‐キャッチタンク‐エアボックスの順に一列でつながっているのが正しいかと思います。

最後に,RACERSのΓに書いてあった中身では
''エンジン回転数、ミッション段数、スロットル開度などのデータを元に、進角特性(点火時期)とパワージェットのオン/オフ(高回転域での混合気濃度)と排気デバイスの作動を制御してやれば、弊害を抑え込み、より高効率なラム圧過給ができるようになったのだ。'' 
とあります。
もし文面通りなら④の問題解決に車速応答型のパワージェット制御を入れて,ラム圧かかったら燃料自体も増やすとかしていた可能性も有ったり無かったりラジバンダリ。

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